私たちは、個人セラピーとファミリーセラピーを併用して、オリジナルな相続支援を、行っています。税理士、弁護士、ファイナンスの専門家と協働 / 協業しています。
今回は、その一端を述べます。相続では、「資産」の承継が行われます。法的な「相続」でまな板に載せられるのは、現金、不動産、株、ビットコインといった「金融資産(financial assets / capital)」だけです。しかし実際に、承継される「資産」は、それだけなのでしょうか?
いいえ違います。質(quality)の異なる別の資産が、複数あります。
たとえば「人的資産/資本(human assets / capital)」。それは、「個人の稼ぐ力」を指します。
いま「個人の」と書きましたが、それは、代々続く「家族の」稼ぐ力(family assets / capital)に、強く影響されます。
ちなみに、家族の影響に抗い「個人」力の開花を応援するのが、〈個人〉セラピーです。一方、家族の影響をまっすぐに見て、家族システムに働きかけるのが、〈家族〉セラピーです。私たちは、個人セラピーと家族セラピーとを併用し、両方を臨機応変に活用しています。
一方、人と人の関係、つながり、絆、人脈、ネットワークは、「社会関係資産(social capital)」と呼ばれます。私たちが社会でやっていくには、この資産がものを言うケースが、少なくありません。
ここに、同じ実力、ジェンダー、年齢、学齢のあるAとBという2人いるとしましょう。
2人は、働きたい同じ会社の最終面接を受けたところです。
Aさんの両親は、その会社の経営者の古くからの知人です。Bさんには、そうした人脈はありません。こうした場合にものを言うのが、社会関係資産です。Aさんの方が、その会社に採用される可能性が高くなるでしょう。
「エリア(地域)資産」も見逃せません。好きな森、川、庭、地元の祭り、住んでいる地域の歴史などは、大切な資産です。相続に当たって、こうしたエリア資産を失わざるを得なくなる場合があります。喪失してはじめて、そのエリアが大切な資産であったと気づくことが、少なくありません。
『魂のケア(Care of the Soul)』の著者、トマス・ムーアは、魂はエリア 〜たとえば故郷〜 に、「愛着する(attach)」といいます。エリアの喪失は、魂の喪失を起こしかねません(筆者2名は、2024年9月にプロフェッショナル・サイコセラピー研究所主催「『集合的トラウマ』からの回復と癒し 〜分断された心とコミュニティの修復のために〜」セミナーを開催しました。ご関心のある方はお問い合わせください)。
社会学者ピエール・ブルデューは、「文化資産(cultural capital)」について述べました。文化資産とは、身のこなし方、立ち振る舞い、美的センス、品格、言葉の選び方や使い方といった文化的素養、教養、学歴などを指します。個人の文化資産は、代々続く家族の文化資産の中で無意識裡に身につきます。ブルデューは文化資産に、社会構造の「差別/格差」を見抜き、批判的考察を行いました。
もう1つ忘れてならないのが、「スピリチュアル資産(spiritual capital)」です。これは、人生の意義(meaning)、使命(mission)、目的(purpose)、忠誠心(loyality)などに関係します。人の死、死生観、宗教観、魂、墓などといったことに絡んでいます。スピリチュアル資産が重視される国や文化は、たくさんあります。ユング心理学やトランスパーソナル心理学は、この資産へのまなざしを持っています。
「資産」には、金融資産だけでなく、人的資産、社会関係資産、エリア資産、文化資産、スピリチュアル資産の6つがあります。この6つは、『有機的』『多層多角的』につながり、絡まっています。
にもかかわらず、現代の相続では、金融資産〈だけ〉が問題になります。そのアプローチでは、たとえ金融の相続がうまくいったとしても、6つの資産からなる有機的全体性(エコシステム)を破壊する、といったことになりかねません。
6つを、ただ1つ(金融資産)に、還元してしまうからです。金融以外の5つの資産を、ないがしろにしかねないためです。金融資産だけに着目するアプローチには、無理があります。そのため、相続に参画するメンバーみなに、不満や不全感をもたらすことが、よくあります。が、その不満や不全感が何なのか、メンバーである自分たちにも、よくわかりません。原因にたどりつけません。
私たちは、相続における6つの資産全体(エコシステム)をホリスティックに、承継するアプローチを試みています。「相続」が「争続」ではなく、家族の想いを乗せた「想続」に結実するためです。そのやり方は、ファミリービジネスの事業承継に、応用可能です。
今回は、さまざまな資産を描き、有機的で全体的な想続について述べました。
この記事の内容は、日本ファミリービジネスアドバイザー協会に寄せた コラム「ファミリーへの支援」の一部を改変したものです。