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ファミリービジネスにとって良いセラピストとは?

たびたび質問されます。
「ファミリービジネス(FB)にとって良いセラピストは、どんなセラピストですか?」と。

答えは、「サステナビリティ(sustainability、永続性、持続可能性)」を支援するセラピストです。

FBAA(一般社団法人ファミリービジネスアドバイザー協会)の推奨するファミリービジネス「理念」の1つが、「サステナビリティ」です。FBのセラピストにも、その考え方は当てはまります。FBのセラピストは、FBの長期的繁栄を支援できるマインドと技術とを、持っている必要があります。

私たちは、サステナビリティについて、エコロジーや植物から捉えることを好みます。ここでは、屋久島の縄文杉から考えてみましょう。あなたは、なぜ屋久杉に、樹齢2000年以上のものがあるのかをご存知ですか?最大の理由は、成長が「遅く」木目(年輪)が「ギュッと詰まっている」からです。

屋久島には、成長の早い木々がたくさんあります。しかし、成長が早い大きい木々は、早晩、折れたり、倒れたりしてしまいます。なぜなら屋久島には、台風や嵐が度々来て、その風雨の勢いや力に、木々が耐えられないからです。「過酷な環境」に耐えられないためです。成長の「速い」木々の年輪の幅は「広く」、中身が詰まって「いなくて、ゆるく、弱い」からです。「長期的」な視座から見ると、成長の遅いことが、過酷な環境の中で生き残るうえで有利に働き、サステナビリティを実現するのです。

「短期的」視座には、ぐんぐん伸びる速い急成長が、良い。しかし、1000年単位で見ると、遅い(slow)成長の方がいい。特に、「過酷な環境」の中では、木目(きめ)の細かくギュッと身の詰まっていることが欠かせない。すると暴風雨が襲ってきても、折れること倒れることが、ありません。そのためには、極わずかな成長を、長期間にわたって愚直にするのがいい。

これは、ビジネスが過酷な環境にある現代において、FBの持続可能性に、示唆を与えてくれるのではないでしょうか?二ノ宮尊徳が重視した考えのひとつに「分度を稼ぐ」という考えがあります。「分度を稼ぐ」とは、「分」をわきまえ、自分の器の「度」合いにフィットするビジネスで、「分」相応に稼ぐことです。

宝くじの高額当選者に、その後の人生が破綻するケースが少なくないと言われます。データによると、高額当選者の7割の人が、後に破産しています。その人の身の丈を超えた(分不相応の)突然の高額当選によって、その人の心や精神の器が、破壊されてしまうからです。矩(のり)を踰(こ)えた儲けは、場合によっては、身を滅ぼしかねません。

高額当選の確立は、雷が直撃する確率とほとんど同じです。高額当選は雷に当たるくらいの衝撃を当選者にもたらし、その人の器を壊す危険な力を秘めています。分度を超えた高額当選(急成長)は、年輪の木目(器)を一挙に広げるため、「レジリエンス力」を弱めます。二ノ宮尊徳は、自分の器の度合いを熟考し、それにフィットするビジネスを行いなさい、と述べます。性急に成長しようと躍起になったり、大きく見せて背伸びをしたり、しないように戒めます。

私たちはFBセラピストとして、クライエントが急いで大きく成長し過ぎて破綻しないように「抑制する(contain)」ことを大事にします。焦りや急いた気持ちに「ブレーキ」をかけるようにマネージメントします。屋久杉のような長期的繁栄をサポートするためです。

スタートアップ企業のセラピーやコーチングでは、成長を「フルに」応援します。一方、ファミリービジネスのセラピーやコーチングでは、「アクセル」だけでなく「ブレーキ」を意識したセラピーを行います。

FBのセラピーで困難なのは、第1に、自分の器(container)の度合い(サイズ)と冷静に / 正直に向かい合うことです。誰もが、自分(の器)を大きく / 良く見せたい、という欲望をいだきがちです。自分の器のサイズを、平静に見つめるのは、しんどい心的作業です。なぜなら、自分が考えていたのより、器が小さかった、ということが少なくないためです。

困難さの第2は、FBを永続させるための器の質的変化(=変容)との取り組みです。器の変容には、象徴的(社会的、経済的)「破壊と創造」つまり「トランジション(transition)」が求められます。

起業が「成功」して「成長」し、2代、3代、そして4代と永続するには、従来のシステム(器)を、変えなければなりません。さもなければ、今までの成功モデル(器)が、ボトルネックになってしまうからです。成長が、失敗の原因となりかねません。従来の成功モデルは、「あくまで」創業者、起業家にとってのものです。その『承継』モデル(器)は、まったく異なる場合が少なくありません。

たとえば、創業時にFBは「パパママ」からなる自営会社であったのが、2代、3代、4代と受け継がれるうちに「きょうだい」や「いとこ」から成る『チーム』会社に変わる必要のあるためです。

創業者にとって、「チーム」は想定外の、絵に描いた餅でしかないかもしれません。チームについてFBメンバーが無知だと、創業者と次世代の間に、暴力や断絶といったことが生じかねません。あるいは、たとえば起業時に「ビジネス」中心であった会社が、永続するためには、「ビジネス」と共に「ファミリー」を尊ぶ(ビジネスとファミリーとがウィンーウィンの)『真のファミリービジネス』に、ならなければならないからです。

起業家にとって、FBのサステナビリティに、「ファミリー」を大事にする視点は、入っていないかもしれません。「ファミリー」は、「ビジネス」を成功させる道具、手足、踏み台ぐらいに思っているかもしれません。しかしそれでは、人権やジェンダー意識の高く、親密な家族関係を大事にする若い世代は、FBの承継に関心を失うかもしれません。若い世代を惹きつけるには、「ビジネス」と「ファミリー」の両方を尊ぶ真のファミリービジネスになっている必要があります。

トランジションには、従来の成功モデルの、象徴的(社会的、経済的)とはいえ「破壊」が不可避です。破壊は、その後に続く創造や刷新のためであっても、痛み、苦しみ、不快、違和、悲哀を伴います。

永続するために、自分の器の度合い(サイズ)を冷静に見つめ、従来の成功 / 成長モデルの破壊と創造の難儀なプロセスを、心的、精神的に支援するのが、FBセラピーの重要な目的の1つです。それは、過酷なビジネス環境の中で、暴風雨に折れたり倒れたりせずに、FBを永続させための、木目がきめ細かく身の詰まったFBの器の育成のためです。

ファミリービジネスにとって良いセラピストは、FBのサステナビリティを支援できるマインドと技術を持ったセラピストです。あなたは、FBセラピーに、ご関心がありますか?

この記事の内容は、日本ファミリービジネスアドバイザー協会に寄せた コラム「ファミリーへの支援」の一部を改変したものです。