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心理セラピーのファミリー・ガバナンス支援とは?

「ファミリー・ガバナンス(family governance)」とは、ファミリーの統治システム(構造、体系、仕組み)です。ファミリー・ビジネスの創業時には、家父長制の下で、創業者の配偶者あるいは配偶者と創業者の2人の「人間 / 個人力」で行っていたファミリーの統治を、「システム化」「見える化」したものです。統治者が変わっても、ファミリーが機能し、永続、発展を可能にする仕組みです。

“governance(ガバナンス)” は、語源的には、ラテン語 の “guberno(船のかじを取る)” や 古代ギリシャ語の “kubernao(船の舵を取る、導く)” から来ています。説話論的にいうと、ファミリーは海原を進む「船」であり、この船の舵取りや目的地に導くことが、ファミリー・ガバナンスです。

ファミリービジネスのファミリーガバナスは、「ファミリー憲法(family constitution)」「家族総会(Family Assembly)」「家族会議(Family Council)」「家族株主委員会(Family Committee)」などから成ります。

それは、ファミリーの総合的利益やウエル・ビーイング(健康、幸福)を保全、維持、防衛、増加を目的にした、ファミリーの利害 / 損得関係や意見、情緒、考えの相違を調整するための体系的ルールです。

私たちは、ファミリー・ガバナンスの創造、維持、発展のために、サイコシンセシス(psychosynthesis)という心理学の「意志(will)」の活用を推奨しています。“psychosynthesis(心理統合)” は、イタリア人で元精神分析医のロベルト・アサジオリが創始した深層心理学、トランスパーソナル心理学の一つです。

それは、意志を2種類に分けます。1つは「未成熟」な意志で、これは厳格さ、根性、忍耐、強制を特徴とします。もう1つは、「成熟」した意志で、それは『方向づけ』『導き』『調整』を意図したものです。未発達な意志は、近視眼的で、力での無理強い(パワハラ)を自分に課します。一方、発達した意志は、自分の置かれた文脈(状況、環境)を俯瞰的に見て、レバレッジ(てこの原理)を活用し、物事を成し遂げるのを支援します。これは、敵の力(気)を活用する合気道的または柔術的意志と言えます。

意志というと、1つ目のものを想起する人が多いのではないでしょうか?しかし、意志には成熟 / 発達したもう1つのものがあったのです。

例から考えてみましょう。あなたは湖で小さなボートに乗っています。あたりが薄暗くなってきたので、岸に戻ろうと思います。その時、2つのことが必要です。1つは、岸の方角を確認すること。2つは、ボートを漕ぐために、あなたの『体力』を使うことです。あなたは腕力を使い、根性を発揮する必要があります。

次に、あなたはボートではなく、大きなヨットに乗っているとします。ここで必要なのは、自然界の複数のエネルギーの相互作用を上手く活用して、「方向舵と帆とを操る技術」です。ヨットを動かすために、不必要な筋力は要りません。体力だけで、大きなヨットは動かせません。

ボートの場合、「あなた」が、推進力にならなければなりません。それには、腕力、体力、忍耐、根性がものを言います。

一方、ヨットの場合、あなたは推進力そのものにはなれ(り)ません。そうではなく、あなたは、いわば『超』推進力(meta-force)です。どういうことでしょうか?波、水流、風、帆の相互作用を、メタ・ポジション(meta-position)から俯瞰的に見て、上手く調整する「メタ・フォース」です。

私たちは、風が吹いているのに、また水の流れがあるのに、それらを無視してあるいは無暗(むやみ)に抗って、ヨットが大きくても、腕力で漕いで進めようとします。それは、独りよがりの視野狭窄に陥った意志~いや、意地~です。
この意志によって大きなヨットの動くことはなく、エネルギーと時間(そして金銭)を、たびたび無駄遣いします。

それに対して、腕力ではないレバレッジ(梃子の原理を活用できる)「メタ・フォース」的な意志、これがサイコシンセシスの勧める質の良い意志です。それは、風力への「鳥の目」や水流への「魚の目」を取り入れた意志です。

“leadership(リーダーシップ)”は、語源的には、“ship(船)” を目的地まで “leader(導く人)” です。

小さなボートであれば、独りの体力で動かせます。

しかし、船が大きくなれば、腕力では、動かせません。メタ・フォースを使う成熟した意志が必要です。

ファミリー・ガバナンス(family governance)は、語源的には、ファミリーという船の舵取りでした。

ファミリー・ビジネスの創業時には、家父長制の下、ファミリーという小さな船(ボート)を、創業者のパートナーまたはパートナーと創業者と2人の個人(腕)力で、舵取りし、リード(lead)することができます。しかし、2代、3代、4代と承継する過程で、ファミリーは次第に大きな船(ヨット)になり、その舵取りを、個人(腕)力でまかなうことはできなくなります。個人で頑張ると、ボトルネックが必ず生じて座礁します。無理がたたると、ガバナスは悪化します。

その時、「個人力」に代わるファミリー・ガバナンス(ファミリーの統治「システム」)が不可欠になります。それには、メタ・フォース(超推進力)を使えるリーダーシップが、求められます。しかしこれには、ファミリーメンバー~特に3サークルの各リーダー~の意志が、「成熟」していなければなりません。それは、質のいいガバナスに不可欠です。

これには、いわゆる「頭の良さ」や「合理性」だけでは足りません。なぜなら、頭の良さだけでは、ファミリー・ガバナンスの(実は)中核にある(非合理的な)情緒や感情をナビゲート(navigate)できないからです。

成熟した意志がなければ、創業者やそのパートナーだけでなく、2代目や3代目も、ファミリー・ガバナンス(というアイディア)に、反対しかねません。それが、たとえ「合理的なシステム」であったとしても。

私たちのところには、ファミリー・ガバナンスを提案しても、心理的に抵抗する(精神 / 心の未成熟な)ファミリー・メンバーのために、合理的なシステムを導入できない、という訴えや相談がたびたびあります。あなたは、そんなケースを目にあるいは耳にしたことがありますか?

そのための処方箋の1つが、サイコシンセシスの意志の考え方です。それは未成熟な意志から、成熟した意志への質的変化を教えます。成熟した意志は、ファミリー・ガバナンスの導入、維持、発展のための精神 / 心理的支援を行います。サイコシンセシスの意志を、あなたにも是非、参考&活用していただきたいと思います。

この記事の内容は、日本ファミリービジネスアドバイザー協会に寄せた コラム「ファミリーへの支援」の一部を改変したものです。