ファミリービジネス(FB)の見方の中心に「システム論」があります。
システムは「仕組み」と訳されます。
システム論は、FBの仕組み全体を「ビジネス」「オーナーシップ」「ファミリー」の3サークルから捉えます。
今回、3サークルからなるファミリービジネスをファミリーセラピーの立場から再考します。
なぜなら、システム論はファミリーセラピーが最も得意とする点だからです。
ファミリーセラピーは、システムを「東洋医学」に例えて説明します。
あなたが胃に問題を抱えたとします。「西洋医学」であれば、胃という「部分」に対してピンポイントの治療(対処療法)を試みるでしょう。
一方、東洋医学は胃の問題は胃にだけでなく、身体「全体」に不調があると考え、全身の具合に着目します。
システム論の最大の特徴は物事を「部分」からではなく、東洋医学のように「全体」から見る点にあります。
では、システム論をとりいれたファミリーセラピーは、それをどう活用するのでしょうか?
たとえば子どもに問題行動が生じたとします。その場合、子どもという「部分」だけに問題を限定するのではなく、家族「全体」のあり様に不調があると仮定します。
そして、ファミリーの関係の持ち方やコミュニケーションの仕方に働きかけ、ファミリーシステム全体が健全さを取り戻すように支援します。家族「全体」が健康になることに伴い、子どもの問題行動(部分)に改善の見られることを意図するからです。
この考え方を基に、ファミリービジネスのシステム論を見直してみましょう。
「ビジネス」に問題が出たとします。普通のコンサルティングであれば、ビジネス・ガバナンスに目を向けるかもしれません。
しかし、システム論からするとそれはビジネスという「部分」だけを見ている「対処療法」です。偏ったアプローチになりかねません。
ファミリーセラピーからすると、FBにおける「ビジネス」「オーナーシップ」「ファミリー」『全体』のあり方、あるいはその3つの関係やバランスについて熟慮することが真のシステム論的視座となります。
そして「ビジネス」だけでなく、「ファミリー」にも目を向けることが「ビジネス」の問題を解決する遠因かもしれないと捉えます。「ファミリー」は遠因ですが、必ず目を向けなければならないポイントだと考えます。
なぜでしょうか?
「ビジネス」「オーナーシップ」「ファミリー」のどれが問題をかかえても、ファミリービジネス『全体』のシステムに悪影響をもたらすからです。「ファミリー」の問題がファミリービジネス『全部』に、そしていずれ「ビジネス」に、ゆっくりかもしれませんがマイナスの結果をもたらすと考えるためです。
同じように、「ファミリー」の問題はファミリーだけの問題ではなく、「ビジネス」におけるガバナンスの課題がファミリーにおけるトラブルの遠因になっている可能性があるととらえます。
ですので、3サークルからなるシステム「全体」への目配せは絶対に必要です。
しかし、3サークルを「全体」システムとして見るのは難しく、イメージしにくいかもしれません。
絨毯(じゅうたん)を例にとって考えてみましょう。
私たちは、FBシステム「全体」を『絨毯』に、そしてビジネス、オーナーシップ、ファミリーの各部分を、それぞれ絨毯を織る上でなくてはならない『糸』と譬えることを勧めています。どの糸が欠けても絨毯は織られず、完成しません。
3サークルは結びつき、影響を与えあう相互依存関係にあります。
あなたは3サークルを「全体」システムとして見る視座をトレーニングしていますか?
もしあなたがビジネス面だけ、あるいはオーナーシップ面だけ、またはビジネス面とオーナーシップ面だけに目を向けるなら、絨毯が『丈夫』に織り上げられることはありません。
それは破れ、偏り、滞りのある『脆弱』な絨毯になります。「ファミリー糸」が抜け落ちているためです。
ファミリー面にも着目すること、3つの側面(糸)と、そこから織りあがる絨毯の全部にくまなく目配りをすることを忘れないでいただきたい。
オッと!大切なことを伝え忘れていました。
システム論によると、システム(全体)は部分の総和ではありません。
総和以上の「有機体」です。
なぜなら、この全体は部品を組み合わせた機械ではないからです。
システム論は全体を「機械」としてではなく「有機体」と仮定します。
胃、心臓、肺・・・を合わせても、「生きた身体」(全体)はできません。
「有機体」としての生きた身体は、胃、心臓、肺・・・の合算とは『質』が異なります。
胃、心臓、肺・・・(部分)の合算が、「どうすれば」機械とは異なる生きた全体(身体)になるでしょうか?
『次元』を変えることです。
胃、心臓、肺・・・は、譬えて言うなら「2次元」で、生きた有機的身体は「3次元」です。
人が複数いても、夫婦や家族ができるわけではありません。
ファミリーセラピーでは、母親、父親、子どもが来談しても、ただ人間が3人いるだけで、まったく家族といえないケースにままあたります。
その3人は、単に人の寄せ集めに過ぎません。
このケースでは、母親、父親、子どもの誰もが、自分たちを「家族」と呼ぶのを強く拒絶していました。
人の寄せ集めは「2次元」に、一方、有機体としての家族は「3次元」に属する、といえるでしょう。
同じようにビジネス、オーナシップ、ファミリーの3部分があるだけでは、「丈夫で質のいい絨毯」としてのファミリービジネスは創造されません。
なぜなら3サークルがあるだけでは、平板なまま「2次元」に留まっているからです。
3サークルが、「有機」的に結びつき相互依存しあうには、3サークルが、「3次元」に昇華される必要があります。
今回、ファミリーセラピーのシステム論から、FBの仕組み全体、つまりビジネス、オーナシップ、ファミリーの3部分について見直すことを試みました。
このうち、システムを3次元で有機的にとらえるのは、なかなか大変です。
家族を人の寄せ集めとして足し算的に見るのは簡単です。
しかし、1つの全体的なシステムとしてとらえるには、臨床実践を通じて「コツ」をつかむしかありません
ファミリービジネスの3サークルも同じです。ファミリービジネスのシステム論を有機体として、真に実践で活用するにはトレーニングと経験が必要です。
こうした点について、あなたとご一緒に学ぶことができれば幸いです。
この記事の内容は、日本ファミリービジネスアドバイザー協会に寄せた コラム「ファミリーへの支援」の一部を改変したものです。