私たちは、ファミリービジネスに向けた「ファイナンシャル・セラピー(FT)」を実践しています。その目的の1つは、心とファイナンスとの良質な関係を育成し、心の面でも、お金の面でも、健康で、サステナブルになることです。
英単語の “depression” は、de(下に向かって)press(プレスする)ことです。depressionは、心理学の文脈では「うつ」、一方、経済学の文脈では「不景気」と訳されます。「心のうつ」と「経済の不景気」とは、「下に向かってプレスすること」という《同じ骨子・構造》を共有しています。
潜在していた「同じ骨子」が見えると、心とお金のことがよくわかり始めます。たとえば、うつを「心の不景気」と、また不景気を「経済的うつ」と捉え直してみると、心とお金について、新たな理解が進みます。すると、お金について考えることが心の豊かさ(リッチさ)に通じ、心の豊かさが、あなたとお金との関係をサステナブルで、健全なものにする契機・気運が生まれます。
摂食障害の代表的症状に、「過食嘔吐」があります。食べ物をお腹に、これでもかこれでもかと詰め込み、もうそれ以上詰め込めなくなると、トイレに隠れ、のどに指を突っ込んで詰め込んだものを「ゲーッ」と吐き出す。それが、過食嘔吐で起きていることです。
過食嘔吐に、食べ物を「味わう」「おいしく食べる」「楽しむ」といったことはありません。ただ、詰め込むだけです。そうせざるを得ない。また、食べたものを「消化する」といったこともありません。詰め込んだものを未消化で、生(なま)のまま、吐き出します。
摂食障害では、言葉にならない不安、恐怖に煽られ脅されて、焦り、パニックになった心の状態を、何とかするため、ごまかすために、何でも胃に詰め込みます。「言葉にならない」不安や恐怖に煽られるため、なぜそうせざるを得ないのか、たどることは難しい。
そこにあるのは、『心の空虚さ』です。
しかし、空虚な心にまっすぐに向き合うことはしません。できません。空虚な心を「内側」に隠し、その心を胃袋に「投影」します。「空虚な心」を投影された、空っぽな胃袋に、食べ物を詰め込んで、空っぽでない詰まった状態にする。そのことで、心が空虚でないようにするのです。空っぽさを埋める「渇望」があるためです(注:内側に隠すのは、摂食障害に「恥トラウマ」が関係しているからです)。
が、詰まってパンパンになった状態にいずれ耐えられなくなり、次に、一挙に嘔吐します。すると、それまであった不安、恐怖、切迫からの解放感やスッキリ感を、そのときだけ達成できる。
そうした展開が、摂食障害では、繰り広げられます。
さて、それは心のことだけではありません。
お金でも、同じ展開の生じることがよくあります。
同一人物によって。また、その人の属する家族システムによって。
なぜなら、そこに「同じ骨子・構造」〜たとえば「心の空虚」〜 が、潜んでいるためです。
その構造が、ある時は心の病 〜摂食障害〜 を通じて、ある時は家族のお金の問題となって、浮上します。
たとえば、摂食障害のいる人の家では、親や祖父母は、ケチケチしてお金を貯めていたりします。が、その目的はありません。あえて目的を探すなら、「溜めこむ・詰め込むため」に、貯めるのです。しかし、その一方で、同じ家の中に、お金を無目的に無駄遣いする、無尽蔵に浪費するメンバーのいる場合もよくあります。
そのメンバーは、買い物依存、ギャンブル依存、ゲーム依存になっていたりします。
ファミリービジネスでは、摂食障害、買い物依存、ギャンブル依存、ゲーム依存・・・などの「依存症」をわずらう人のいるケースが、少なくありません。また、絵画、音楽、ダンス、スポーツなどの領域にハマって、お金を垂れ流し続ける家族メンバーと、それがよくないとわかっていながら、その家族メンバーと向き合えない共依存の・パトロン的な甘い親や兄弟のいるファミリービジネスは、とても多いです。
依存症の人がいない家族の場合は、お金を溜め・貯め込んだ当人が、あるいはそのパートナーが、晩年に投資で大失敗したり、詐欺に騙されたりして、一挙にお金を失ってしまったりします。ちなみに、溜め・貯め込みも、無駄使いや浪費も、「心の空虚」をなんとかしようとする、家族システムの無意識的企てです。投資の大失敗の背景に、「心の空虚・空白」のあることがよくあります。
お金にまつわる一連の現象と、摂食障害の心に関する展開との間には、瓜(うり)二つの「骨子・構造」が潜んでいる、と言えないでしょうか?
その家族では、貯まったお金を「消化」することがありません。お金の豊かさを味わいません。お金は消化されず、豊かに使われず、「生(なま)」のまま排泄、つまり《嘔吐》され、失われてしまいます。それは、摂食障害の過食嘔吐の展開とよく似ています。その家族の「お金」の問題を真に解決するには、家族システムに潜む「心の空虚さ」が取り組まれなければなりません。
過食嘔吐や、お金の溜め込み及び浪費は、「表面上」の課題に過ぎず、過食嘔吐、お金の溜め込みと無駄遣いの深層にある「同じ骨子 〜空虚さ〜」に向き合うことが、求められます。
こんな風に、「心」と「お金」、さらには「家族システム」の背景には同様の構造やパターンが、潜んでいます。
私たちの実践するファイナンシャル・セラピーでは、こうした点に積極的に触れ、働きかけていきます。その構造やパターンが見えなければ、心とファイナンスとの良質な関係を育成し、心の面でも、お金の面でも健康で、サステナブルになることが困難だからです。
それは、通常のファイナンシャル・セラピーやファイナンシャル・コーチングにはない、私たちのオリジナルな視座です。
あなたに、ぜひ身につけていただきたい着眼点です。
心とファイナンスを、一緒に豊かにするアプローチです。
あなたは、ファミリービジネスに向けたファイナンシャル・セラピーにご関心がありますか?
この記事の内容は、日本ファミリービジネスアドバイザー協会に寄せた コラム「ファミリーへの支援」の一部を改変したものです。