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ダイソンの事例から

ファミリービジネスとは、どういったものでしょうか?

イギリスのファミリー企業「ダイソン」から、考えてみましょう。

ダイソンが成功を収めたとたん、英国の人々は、いつ会社を売るつもりなのかと聞いてきた。まるで僕が一時的に自分を貶めて、創造性とは無縁の暗くて薄汚れた製造業の世界にいるにすぎないのだろうと言わんばかりだった。最初の100万ポンドを稼いだときは、汗まみれ、汚れまみれできつい工場生活から逃げ出し、隠遁した地主になり、鴨小屋を建て、家のまわりの堀を掃除して過ごすのにうってつけのタイミングだったのは確かだ。いずれにせよ、どうやら学のあるらしい人間ならオフィスやスタジオで「クリエイティブ」なことをやっていられそうなときに、僕が工場の中を駆けずり回っているのはなぜなのか?起業家たちが、できるだけ早い機会に会社を売却したり、あるいは株を公開したがるという意味で、英国は僕の知る唯一の国だ。このことに僕はいつも当惑し、悲しく思っている。企業は株を公開すると何かを失うと僕が信じているのもつの理由だが、こうした企業の多くが最終的に外国の手に渡り、道を見失い、ついには隷属的企業に落ちぶれてしまうからだ。他方、家族経営による企業は、世代を通して受け継がれていく。英国は他国に比べてその数が驚くほど少ない。

例えば、ドイツには有名な「ミッテルシュタント」がある。中堅民間企業を指し、何世代も受け継がれてきた企業も多いし、BMWや僕たちのライバルであるボッシュのような巨大企業もある。フランスには同族オーナーによるファッション産業の大企業があるし、イタリアやスペインも同様だ。米国は家族経営企業が世界一多く、大手食品企業のマースや穀物メジャーのカーギルもそうだ。しかし英国では、建機のJCBを除けば、起業家が創業した重要な民間企業の名を挙げるのは難しい。これが英国を不利な立場に追いやっている。というのも、家族経営の利点は長期的に考えて投資ができることにあり、これは株式公開企業にはできないことだ。また、家族企業には精神や良心、そして哲学があるが、株式公開企業ではしばしばこれが欠けていると僕は考えている。

英国の起業家ができるだけ会社を早く売却してしまいたがるのは、最初から金目当ての起業であったり、あるいは続けるうちに何もかも失うのが怖くなるからだろう。金のためなら、自分のやっていることにも、ビジネスにも、同僚にも、そして顧客に対してすら情熱を傾けてはいまい。彼らの情熱は短期間で金持ちになることにあり、現金化する前に企業を失う恐怖に支配されている。

ジェームズ・ダイソン著『インベンション 僕は未来を創意する』(日本経済新聞出版、2022年、P.405-P.406参照)

いかがですか?

ダイソンのようなファミリービジネスは、短期的金目当てを第一の目的とするのではなく、世代を超えて承継され永続する企業、精神、良心、哲学があって、顧客、ビジネス、同僚に情熱のある会社であるところが、特徴です。

ファミリービジネス支援センターは、ファミリービジネスが、そうした良質な企業になることを心理療法やファミリー・セラピーの観点から支援します。